育成就労制度(技能実習後継制度)のポイント整理
技能実習制度及び特定技能制度の改定の議論の推移をこれまでご紹介してきましたが、3月7日に自民党の関係会議で「育成就労」創設に向けた技能実習適正化法と入管難民法の改正案が了承され、3月15日に今国会に法案が提出されました。
新制度の内容を概括的に評価すると、
・労働者確保の実態を制度的に明文化し、
・技能実習制度の使い勝手をかなり残しつつ(地方や零細企業に目配りしつつ)、
・長期就労のための枠組と支援をギリギリ整えた
・過渡的な外国人労働者受け入れ制度
といえると考えます。
立場により様々な批評ができると思いますが、評価できる部分、今後の課題として残った部分がともにあり、漸進的な改定内容となったと思います。
なにはともあれ、法案が国会へ提出されたこともあり、このあたりで再度この技能実習後継制度に関し、ポイントをまとめておきます。国会の議論のなかで内容がもまれていくと思いますが、これまでの有識者会議の最終報告書、政府対応方針、提出された法案および各種報道内容を参考に、現時点での見取り図を簡潔に整理します。
目的と名称
技能実習制度は発展的に解消され、名称は「育成就労制度」と変更されます。
当制度の目的は下記のようにまとめられています。
①特定技能1号水準の技能を有する人材を育成すること
②当該分野における人材を確保すること
人材確保が明記されたことにより、技能移転等の国際貢献を目的とした技能実習制度が、正式に外国人労働者受け入れの制度へ生まれ変わったといえます。
と同時に①の人材育成も目的として残り、受け入れには「育成就労計画」の策定や技能検定試験の受験など技能実習制度の枠組も継承しています。
また、制度改定により各種名称も例えば下記のように変更となる予定です。
・技能実習法 → 育成就労法
・技能実習生 → 育成就労外国人
・監理団体 → 監理支援機関
・外国人技能実習機構 → 外国人育成就労機構
などなど
職種分野と受け入れ枠
育成就労外国人として受け入れることのできる職種分野は「育成就労産業分野」と呼ばれ、接続する特定技能の特定産業分野と一致します。食品製造であれば、技能実習では11職種18作業に分かれていましたが、これが飲食料品製造業という分野・業務区分に統一され、業務範囲がより幅広く、活用しやすくなりそうです。
但し、「当該業務区分の中で修得すべき主たる技能を定めて計画的に育成・評価を行う」とされており、技能実習制度での職種・作業に準じた「主たる技能」を育成就労計画で設定し、また技能検定試験・技能評価試験を実施するという流れになるのではないかと想像できます。
特定技能の職種分野は現時点では12分野となっていますが、既報のとおり「自動車運送」「鉄道」「林業」「木材産業」「鉄鋼業」「繊維業」などが追加されるとの報道があります。(こちら参照)
受け入れ枠は、当初の5年間の34万人から82万人(24年~28年)へと大幅な拡大となりました。分野ごとの受入れ枠を実質的な上限とみなし、運用していきます。技能実習制度で存在した企業ごとの受け入れ枠についてですが、政府方針には「受入れ機関ごとの受入れ人数枠を含む育成・支援体制等の要件を適正化して設定する」と明記されており、企業ごとの枠の設定も想定されているようです。
育成評価のための試験の概要
制度改定後の育成就労および特定技能の育成評価方法については、全般的に技能実習時代よりも厳しくなります。
特に日本語試験の要件が厳格になり、より高い日本語力が求められるようになります。
(下表参照。グレー化箇所は未確認。)
時期 | 現行(技能実習制度)の試験要件 | 改定後(育成就労制度)の試験要件 |
就労開始前 | なし(技能実習生) | 日本語能力試験N5等合格 ※日本語講習の受講でも可 |
1年目 | ・技能検定基礎級(初級)合格 | ・技能検定基礎級(初級)合格 かつ・日本語能力試験N5等合格(未合格の人のみ) |
特定技能1号移行 | ・(同一職種の技能実習2号修了)試験免除 ・(その他)特定技能1号試験合格及び日本語能力試験N4等合格 などバリエーションあり | ・技能検定3級等(専門級)合格または特定技能1号試験合格 かつ ・日本語能力試験N4等合格 ※暫定措置として日本語講習の受講でも可 |
特定技能2号移行 | ・特定技能2号試験合格 かつ ・一定の実務経験 | ・特定技能2号試験合格 かつ ・日本語能力試験N3等合格 (・一定の実務経験も?) |
大きな変更点は以下の4点です。
①就労開始前の日本語能力試験N5等合格(講習受講も可)が必要
②1年目の要件として、日本語能力試験N5等合格(就労開始前に合格していない人)が必須となった
(つまり育成就労1年目終了までに必ず日本語能力試験N5等の合格が必要になった)
③育成就労3年修了後に、特定技能1号へ移行する場合、(同一職種移行の)技能実習では免除であった日本語能力試験N4等合格が必須となった
④特定技能2号移行時に、分野によって免除であった日本語能力試験N3等合格が必須となった
(あさひねっと協同組合ではこうした制度内容の転換に対応するため、本年よりすべての希望する所属人材に対して日本語能力試験の受験支援の拡充と無料のオンライン授業の提供をスタートさせました。(こちら参照 ① ②))
また、特定技能測定試験を合格する「試験ルート」での特定技能1号移行が、育成就労外国人にも認められるようになります。
例えば、3年に満たない育成就労外国人も下記の要件がそろえば、「飛び級」で特定技能1号へ変更が可能です。
1)同一の受入れ機関のおいて一定の就労期間を超えていること(分野によって1~2年で設定※後述)
2)特定技能1号技能測定試験と日本語能力試験N4等合格の合格
つまり育成途中の人材でも条件を満たせば、育成就労期間を短縮することができます。
転籍(転職)について
焦点となっていた「本人意向による転籍」の要件については、激減緩和措置が採用され、最大2年間の転籍制限が「当分の間」適用されます。
▼本人意向による転籍の要件
①転籍先が同一業務区分であること(同じ職種間での転籍に限定)
②当初受入れされた機関での就労期間が一定期間を超えていること(分野により1~2年間の範囲で設定)
③技能検定試験基礎級(初級)等の合格及び日本語能力試験N5等の合格(日本語試験は分野によりレベル上位変更可能)
④転籍先となる受け入れ機関が、転職者ばかり受入れしている等の不適切な機関でないこと
こうした本人意向による転籍の場合、当初受入れした機関が支払った初期費用が無駄になることが想定され、転籍先の企業が応分負担するなど転籍前の企業が正当な補填を受けられるような仕組みも検討されています。
また「やむを得ない事情がある場合の転籍」については、技能実習制度でも利用がありましたが、よりその適用範囲を拡大・明確化することが明記されました。事例としては、「例えば、労働条件について契約時の内容と実態との間で一定の相違がある場合」とあり、こうしたやむを得ない事情による転籍の場合は、上記の「本人意向による転籍の要件」は免除となります。
制度施行スケジュールと技能実習制度からの移行期間
こちらは先日既報した内容から情報更新されておりません。再掲します。
- 育成就労制度は今国会で法案成立予定で、成立後3年以内の施行となる。現状では、3年後の2027年の施行予定。
- 2027年の施行後3年間は激変緩和措置として移行期間を設ける。
- 2027年の制度施行の直前に入国した技能実習生は、育成就労制度と併存し、技能実習期間終了まで実習を行うことができる。つまり、上記の移行期間がちょうど3年であるのはそうした趣旨もあると見られる。
- 移行期間中に技能実習を継続する技能実習生は、途中での育成就労への変更は認められない。技能実習生は転職制限も継続。
監理支援機関(旧監理団体)について
監理型育成就労(旧団体監理型)に関し、育成就労外国人の受入れ仲介は、引き続き非営利法人に限定されます。
民間の派遣会社などは対象外であり、事業協同組合等が受入窓口として対応を行います。
現行の監理団体等は、育成就労制度の施行に合わせ、改めて審査を経て許可を受けることが要件とされます。許可においては、より厳格な基準が設けられます。
例えば、
・受入れ機関と密接な関係を有する役職員の監理への関与制限
・外部監査人の設置の義務化
・受入れ機関数等に応じた職員の配置・相談体制の担保
などが新設されます。
また継続される要件としては、
・監理支援事業を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有するもの
・外国の送出機関との間で就労取次ぎに係る契約を締結していること
・監理支援事業の経費等を勘案して適正な監理支援費を徴収しそれ以外の報酬等を受けないこと
などが挙げられます。
弊組合は上記のいずれにおいても基準に適合しております。
その他制度改訂内容
技能実習法の改定と同時に、入管法の改定も行われます。
外国人材の長期就労・滞在を見据え、不法就労助長罪の厳罰化が行われます。
なお、育成就労外国人の転籍斡旋については、監理支援機関を中心とした対応が規定され、当分の間、民間の職業紹介事業者の関与は認めないこととなりました(育成就労法)。
また特定技能を経た永住権取得の動きも活発化することが想定され、永住許可の制度も改訂されます。
以上、ポイント整理いかがでしたでしょうか。
各カテゴリの細かな項目や今回言及できなかった内容については、別途またご案内できるようにいたします。