【制度改定】有識者会議の最終報告素案が公表されました

先日10月18日に、技能実習制度及び特定技能制度の改定を協議する有識者会議により、最終報告書のたたき台(素案)が公表されました。

添付いたしました「最終報告書たたき台(概要)」と「現行制度と新制度のイメージ図」が比較的分かりやすいと存じますので、ご提供いたします。

こちらは11月に決定する最終報告書のための素案であり、最終決定ではございませんが、新制度の見取り図として具体的な内容が書き込まれる段階となりました。

公表されている提言部分も確認したうえで、下記のとおりポイントを整理いたします。

https://www.moj.go.jp/isa/policies/policies/03_00001.html

【注目ポイント(大カテゴリ)】

  • 技能実習制度の後継制度(以下、新制度)は3年の枠組み。人手不足と人材育成を目的とし、特定技能1号レベルの人材を育成する。名称は「育成技能」が検討されている。
  • 技能実習88職種は集約され、特定技能の業務区分と同一となる。現在11職種で構成される食品製造職種は、飲食料品製造業へ一本化。
  • 入国後の(本人意向による)転籍を許可。①就労1年超、②技能検定基礎級合格、③日本語能力支援N5等合格、の3つを条件に同一分野(職種)内の転籍に限る。
  • 技能実習機構は改組され、特定技能の相談援助業務も兼務。入管と役割分担。
  • 監理団体、登録支援機関の許可・登録要件を厳格化。
  • 外国人材の就労開始前の要件、特定技能1号移行要件、特定技能2号移行要件がそれぞれ改めて規定。おおむね現行より厳しくなる。※激変緩和措置あり
  • 受入れ企業等による費用負担の仕組みを導入。①母国手数料の一定部分を受け入れ企業が負担、②受入れ初期費用の一部を転籍受入れ企業が分担。

【考察】

▼転籍について

まず一番の注目ポイントであった転籍制限の緩和について、具体的な要件が挙げられた。

労働基準法では長期の労働契約でも就労開始から1年経過後に随時の退職ができることを定めている。こうした法的根拠をもとに、新制度でも就労1年超での転籍を許可する。

転籍回数や転籍できる地域などの制限はない(そのような記述はない)。但し、同一分野(職種)内での転籍に制限する。

また、転籍要件として、「就労1年超」以外には、技能検定基礎級合格、日本語能力支援N5等合格、の2つを設定。

技能検定基礎級は、現状でも1年目に実施している技能検定(技能評価試験)と同等のものと想定され、ハードルは低い。

目新しいのは日本語能力支援N5等合格という要件だろう。人材によってはここが一つのハードルになる可能性がある。

それと、転籍にあたって、最初に受け入れた企業が負担した初期費用を払い損にしない配慮にも言及されている。

転籍後の受け入れ企業等にも、この初期費用を「移籍金」のような形で一定程度分担することなど措置が講じられる。

この点果たして公平な配分ができるのか、また転籍後にさらに転籍した場合は、初期費用の分担がいつまで続くのか、最終報告書までにもっと具体的なアイデアへ練り上げる必要がある。

さらに注目すべき点としては、3年間の育成期間終了前に帰国した者については、新制度による再度の入国を認めることだ。この場合、前回の新制度による滞在が2年以下の人材が対象となり、かつ異なる分野(職種)での就労を選択することができる。異なる分野(職種)を選択した場合、改めて3年の育成期間を経る必要があるのか、前回の残りの期間で良いのか、この素案では読み取れなかった。

▼新制度の職種区分について

新制度の受入れ分野については、「現行の技能実習制度の職種等を当然に引き継ぐのではなく、新たな制度の趣旨等を踏まえ、新たに設定するものとする」と今回の提言に書き込まれており、技能実習88職種がそのまま存続することはなくなる。また、その受入れ分野は、現行の特定技能の「業務区分」と同一とする。

例えば、特定技能の建設分野については、業務区分として、土木、建築、ライフライン・設備の3つの区分が設定されている。このため、建設分野では、技能実習後継新制度においても、この3つの業務区分に応じた職種(分野)が設定される公算が大きい。

一方、飲食料品製造業は、業務区分が一つ(飲食料品製造全般のみ)のため、新制度でも職種(分野)は一つの区分になると見込まれる。そう菜製造やハムソー、水産加工、牛豚加工などの細かな区分けがなくなり、垣根を越えて業務ができる可能性がある(が、後述のとおり業務区分内での「主たる業務」の選定要件もあり、今後の情報公開を待つ)。

また、技能検定(技能評価試験)は、現行どおり1年目と3年目に設定されると素案からは読み取ることができ、特定技能1号レベルへの育成を客観判定する枠組みとなる。

この辺の試験の内容は、上記の業務区分の統一の流れの中で再設定されるのか、細かな職種を試験面では残し、現行の11職種ごとの技能検定(技能評価試験)を存続させるのか正確に読み取ることはできない(素案には、「当該業務区分の中で修得すべき主たる業務を定めて育成・評価を行う」と書き込まれており、後者の可能性もある。現在の各試験団体の受験料収入のことも考えるとなお後者か。)。今後の協議進捗をフォローしていく。

▼就労前や特定技能移行の要件としての試験

新制度では、就労開始前(≒入国前/入国直後)や特定技能移行の要件として、日本語能力の判定を中心に試験項目が追加規定された。

概要を下記のとおり整理する。

時期現行(技能実習制度)の試験要件改定後(新制度)の試験要件
就労開始前なし(技能実習生)日本語能力試験N5等合格 ※日本語講習の受講でも可(恒久的か)
特定技能1号移行・(同一職種の技能実習2号修了)試験免除 ・(その他)特定技能1号試験合格及び日本語能力試験N4等合格 などバリエーションあり・技能検定3級等(専門級)合格または特定技能1号試験合格 かつ ・日本語能力試験N4等合格 ※暫定措置として日本語講習の受講でも可
特定技能2号移行・特定技能2号試験合格 かつ ・一定の実務経験・特定技能2号試験合格 かつ ・日本語能力試験N3等合格 (・一定の実務経験も?)

就労開始前の日本語レベルの条件を、日本語能力試験N5等合格とした。

講習受講での代替条件も認めたが、就労1年超での転籍の際には、N5等の合格が必須となっている。

また現行制度では技能実習2号修了者は同一職種での特定技能1号移行は試験免除となっているが、新制度では3年修了前に技能検定等と日本語能力試験N4等の合格が条件とされた。現行制度と異なり、新制度では特定技能1号レベルへの育成結果を客観的に測り、長期就労や自律的な生活構築(and共生)のための日本語能力を重視する趣旨に則る。不合格の場合は、再受験のため最長1年の在留継続が認められることも明記されている。

但し、暫定措置として、「当分の間」は日本語試験の代わりに日本語講習受講により条件を満たすことも認められており、新制度導入初期はこうした代替条件の活用が多くなりそうだ。

他職種の特定技能1号試験を合格できれば、現行どおり特定技能移行時(もしくは途中で)に他職種への転職ができるかどうかは今回の素案からは読み取れない。

特定技能2号では、日本語能力試験N3等の合格が追加条件となっており、ハードルが高い。代替の講習受講条件もなく、特定技能2号試験の難易度も相まって、制度設計次第では特定技能2号の活用にマイナスの影響も出かねないと考える。

▼監理団体、登録支援機関の許可要件等の厳格化

監理団体の独立性・中立性要件の強化のため、受入企業等との役職員の兼職制限や外部者による監視強化などが盛り込まれた。また、受け入れ企業数等に応じた職員の配置や外国語による相談応需体制の強化なども書き込まれており、職員の手が足りない団体や受入れ外国人材の母語スタッフが在籍しない団体などは事業継続が危ぶまれることも考えられる。素案提言部分では、「新たな制度の下での監理団体については、~、その許可要件を厳格化した上、新たに許可を受けるべきものとする」とされており、すでに許可を取得している監理団体も改めて審査を経て許可を受ける流れになる見込みが高い。また、登録支援機関の登録要件も厳格化されること、受け入れ企業についても「育成・支援体制等に係る要件」を整備する必要があることなどが記載されているが、具体的な内容までには踏み込んでいない。

▼その他

・母国での技能実習生の借金問題については、日本当局としても対応に限界がある。新制度では、「受け入れ企業等が一定の来日前手数料を負担するなどの仕組みを導入」する。国際労働機関(ILO)の民間職業仲介事業所条約でも、労働者から手数料または経費を徴収してはならないことが規定されている。ベトナムなど東南アジアの国では同条約を批准していない国も少なくない。今回の新制度では、実効性のある対策として、受け入れ側の負担に踏み込んだ。異論が出る可能性のあるところでもあり、最終的な報告書にどう明記されるか注目される。

・現在の技能実習制度や特定技能制度では、各種の申請や届出など受入れに係る周辺業務が多い。新制度では、優良な監理団体や登録支援機関、企業においては、こうした周辺業務の簡素化や頻度軽減などの優遇措置を講じる。技能実習制度の軽微変更や特定技能制度の随時届・定期届などの省力化が期待できる。

・特定技能1号での家族帯同は現行どおり認めない。また永住権の取得のための在日年数要件のなかに、特定技能1号をカウントするとの記載もない。ここは現状維持か。

・受入れ分野ごとの受入れ見込み数を実質的な上限として運用することは変わらないが、各種動向等の変化に応じて「柔軟に変更できる運用とする」。あまり気にしなくてよい。

・入国後の監理団体による1ヵ月講習の存続については正確に読み取れないが、就労開始前要件としての日本語講習受講の代替手段の記述のなかに、「入国直後の認定日本語教育機関等における相当の日本語講習の受講」とあるため、なんらかの形で残る可能性もある。

注目ポイントの転籍制限の緩和については、早速自民党の外国人労働者等特別委員会で異論が出ているようです。

報道によると「地方から人材が流出する」「転籍を認めるのが早すぎる」「2年は必要」などの発言があったとのこと。

ただ実際は、最終報告素案として、転籍制限の緩和の条件が明記されたことにより、新制度移行後の人材定着への取り組みが本格化することになると思います。

地方の中小企業では、せっかく育成した外国人材が1年余りで都会へ流出してしまうという危機感が強いと報道にもございます。

https://www.sankei.com/article/20231018-3VED64K7WJI6RF3N7OUASMJK3A/

一方で、提言には、新制度への移行にあたり「現在も多くの技能実習生が受け入れられているという実態に留意し、移行期間を十分に確保すべきである」と書かれております。

移行期間は、現行制度の技能実習生と併存になるのか、既存の技能実習生も新制度人材へ切り替えし、制度刷新を加速するのか、これもまだ現状では不明です。

いずれにしても、今後、外国人材の受け入れを継続活用したい企業においては、人材定着のための魅力向上(選ばれる企業への取り組み)を最優先課題の一つとして取り組むケースが増えてくると想定され、弊組合会員企業様におかれましても、是非そうした方向性で、特に特定技能定着を図る施策をご検討いただきたいと考えております。

弊組合も微力ながら、各種提案・支援を行って参ります。